安全カミソリ

 電動ではない髭剃り器を安全カミソリというのならそれはいまも在る。ただし、昔のそれとは別物である。

 昔の安全カミソリは両側に刃のついた刃(ヘンな日本語になってしまった。カミソリとは(髭剃りの別称ではなく)本来はこの刃のことなのだろうか)を挿入して使う物だった。お風呂やさんでは、当時ではめずらしい〝使い捨て〟の安全カミソリが一本五円ほどで売られていた。

 国産では、貝印の名が目立っていた。

 この薄くて鋭い刃は、顕微鏡用のプレパラート作りにも重宝していた。被観察材を薄くスライスするのに無くてはならないものだった。手先が器用な日本人は、このカミソリを使いこなすことによって、顕微鏡観察の世界でも注目されていたとか。

 また、このカミソリの刃を流用する折りたたみ式のボン・ナイフなる文具も売られていた。小中学生はひとり一個くらいは持っていたのではなかろうか。刃は鋭いが持ち運びは安全なので、鉛筆削りの道具として、学校への持ち込みも可能だった。

 刃よりも先にこのボンナイフのほうが消えていった。手動そして電動の鉛筆削り器が出回り、さらには百円シャープペンシルが出たことによって、鉛筆削り器としての出番が無くなってしまったためだろう。

 そして、両刃のカミソリもなくなった。これは電動髭剃りの出現が原因している。また、シックとかジレットなどの手動式髭剃りも、高機能化し、二枚刃、三枚刃などになり、刃だけを交換するのではなく、刃を埋め込んだヘッド部をスポッと交換する機構になったためである。

 顕微鏡のプレパラート作りはその後どうしているのだろうか。

 貝印はいますますご健勝のご様子。