電話

 小中高と全校生徒の住所録が毎年配られていた。今のように個人情報の保護など思いもしなかった時代である。

 それを見ると小学校では無いほうが多く、中学校でもまだ無いほうが多く、高校になって半々くらいになったであろうか。

 住所のあとに記載されている電話番号の話である。一家に一台は当たり前で、それに加えて一人ひとりが携帯電話を持つ〝いま〟から見ればなんとも信じがたい情勢かもしれない。

 でも当時は無くてもどうってことなかった。呼び出し電話というものがあった。近くのかたのご厚意で電話を取り次いで貰うことも普通に行われていた。名簿にも〝呼〟付きの電話番号が混在していた。

 かけるほう(発信)も独特の方法があった。公衆電話も十分には無い時代である。ご厚意に甘えることのできるお宅の電話を借用し、まず電話局へかける。そこで相手の番号を告げ、繋いでもらう。受話器を置いてしばらくすると、局から電話がかかってきて料金が知らされる。その金額をご厚意の主にお支払いする。

 まあ、そんな感じで概ね用が足りていた。時代がゆっくりしていたことも事実である。また、ご厚意に甘えることができるような近所付き合いもあった。

 いろいろと便利になった今と比べてどうのこうのいうことはできないが。まあ、なんだかんだといっても、いまさらあの時代に戻ることはできないだろうが。