ジュース

 いまでこそ、紙パック入り、瓶入り、缶入り、ペットボトル入り、多種多様のジュースが出まわっているが、幼少のころはジュースは身近な飲み物ではなかった。お腹をこわした折などにおろし金ですりおろした林檎を飲ませてもらうのが関の山だった。めったには味わうことのできない貴重な病人食だ。

 市販品ではトリス・コンクジュース。これは濃縮還元ジュース、つまり水で何倍かに薄めて飲むタイプ。ジュースには違いないのだが、ちょっと違う気がした。フルーツ牛乳とかフルーツ・カルピスもあったがこれは果物風味の何々であってジュースではない。

 バヤリース・オレンジなる瓶入りのジュースは売られていたが贅沢品とみなされ簡単には買ってもらえなかった。余談だが、チンパンジーの映像に勝手に台詞をつけたバヤリースのテレビCMはおもしろかった。

 そんなバヤリースの独壇場にプラッシーが乗り込んできた。こちらも瓶入りジュース。プラッシーは嗜好品であることよりも栄養食品であることを前面に出していたような気がする。なのでこちらはときどき買って貰うことができた。宣伝戦略の当たりかも。

 やがて画期的な商品が現れる。それは、わたなべジュースのもと。粉末ジュースだ。コップに粉末をいれ水を注いでかき混ぜるとジュースになる。実際に果汁がどれほど入っていたのかは知らない。そんなことには大らかな時代だった。普及しだしたテレビのCMを通じて爆発的に売れたのではないだろうか。もしかしたらテレビCMの成功例第一号かもしれない。景品で配られたマドラーもあちこちで見かけた。マドラー普及の功労者かも。電気冷蔵庫で作った氷を入れると文明開化となる。夢のアメリカン・ライフ実現の第一号かも。水に溶かずに粉末のまま舐めることもあった。もちろんもったいないので舐めるのは少しだけ、あとは水に溶かしてジュースにした。

 コカコーラ上陸に伴い、ファンタ・オレンジ、ファンタ・グレープ、チェリオなど炭酸飲料も出回るようになった。がこれもジュースと言うのはちょっと。バヤリースに対抗したリボン・ジュースもあまり売れたようではない。

 ジュースを気軽に飲めるようになったのはポンジュースの発売からではないだろうか。だれか考証してくれないだろうか。