くるまを押す

 最近、くるまを押している光景を目にすることはほとんどなくなりました。

 昔はまちのあちこちでみかけました。また、くるまを押しひとが同情していない場合には、近くのひとがお手伝いするといった助け合いも見られました。

 ところでなぜくるまを押すのか。動かなくなってしまったくるまを移動するためではありません。エンジンを始動するためです。普段はキーを回すことによってセルモータが起動しエンジンがかかるのですが、セルモーターが回らなかったり、回ってもエンジンがかからないことがよくありました。とりわけ、セルモータがカラカラと音を立てて回っているのにエンジンがかからない光景をよく目にしました。

 くるまを押せばタイヤが回る。タイヤが回ればエンジンもまわる。エンジンが回っている時にセルモータを回して起動するのです。タイヤを回せば良いのですから坂道を下りながらエンジンをかけるのはうまい方法でした。

 もっと前には、ボンネットにクランクシャフトという棒を通し、それを回すことによってエンジンを始動していたようです。このクランクシャフトをまわすのは助手の役目のひとつ。その助手が運転席のとなりに座っていたので、その席を助手席と呼ぶようになったとか。

 エンジンはセルモータの性能が向上した現在、ほとんど見かけることにない光景ですね。