ひとさらい

 こどもころ、よく「ひとさらいにさらわれるよ」と脅かされた。そのころは素直におびえていたのだが、はたしてどうだったのだろうか。

 本当にひとさらいなるものがいたのだろうか。誘拐ではない。誘拐というのは、拉致してその家族など身内から身代金をせしめるののである。

 ひとさらいというのはそうではない。拉致したこどもをどこかへ売って金を得るのである。で、どこへ売る? よく言われたのはサーカス。だけど、サーカスというのは超人わざをみせるものである。そんな、さらってきた子供がすぐになにかをできるわけではない。サーカスに人買いの需要などほとんどないだろう。

 ではどこに? 吉原というのもある。だけどロリータ趣味が確立しているいまと違って、昔はそんなこどもに客がつくこともなかっただろう。かといって禿から修行をさせるほどの余裕もなかっただろう。

 と考えていくと、ひとさらいというのは商売として成り立ちそうには思えない。

 しかし、ひとさらいのはなしは、東京にも大阪にもあった。実態はどうだったのだろうか。さらわれた子供はいたのだろうか。

 個人的には、おどかされるだけで、具体的な話は聞いたことは無い。友達が急にいなくなったなんて体験もしたことがない。

 そういえば、野犬狩りのこともよく耳にした。これも野犬をつかまえてどうするのだろう。食うのだろうか。猫なら三味線という話もあるが、それにしても、三味線の需要がそんなにあるとは思えないし。

 よくわからない。