トロリーバス

 トロリー・バスというものがあった。都電と同じように架線があってそこから電気を取って走るバスである。都電と違って、線路はなく運転手のハンドル操作で走るバスである。なんともまあ中途半端な乗り物である。下手すると架線から外れかねないが、そのような事故は記憶にない。そのような心配は杞憂だろう。

 でも、このトロリーバス、どういった背景で登場したのであろうか。ルートに架線を張り巡らせるのはたやすいことではない。そんなに切迫した事情があったのだろうか。

 公害とか大気汚染という問題意識はまだ芽生えていない時代である。二酸化炭素による地球温暖化などはまったく念頭になかった。

 石油不足の解消を目的とした公共機関をめざしたのかもしれない。火力発電の燃料は石炭が主だった時代である。ガソリンの原料の石油はないけれど、火力発電の原料の石炭ならある。そういった事情が背景にあったのかも知れない。

 それはさておき。路面電車の話題は頻繁に登場するが、トロリーバスはすっかり忘れられてしまった感がする。大気汚染対策、二酸化炭素低減対策として路面電車を検討するなら、線路が要らない分、設備投資も少なくて済むトロリーバスの話が出てきてもよいようにも思われる。利便性も路面電車とさしてかわらない。なのにいくら待っても出てこない。

 ということは、路面電車にはそのような公共性のほかに“なにか”があるのだろう。それは……、それはおそらくは人間の心理、“なつかしさ”という要素が大きいのだろう。トロリーバスはノスタルジーを感じさせるほどには普及しなかった。

 それにまあ、わざわざ架線を張らなくとも、蓄電池やハイブリッド、あるいは燃料電池で走るバスの実用化はそう遠い話ではなさそうなので、トロリーバスの出番は最早ありえないのかもしれない。