壁スイッチ

 ドアを開けて部屋に入り、壁のスイッチを押すと照明が灯る。あたりまえの情景だが、昭和の時代はそうはいかなかった。

 照明器具は天井からぶら下がっていた。そして、そこからひもが伸びていた。その紐を引くことによって、照明を入れたり切ったりしていた。

 へたをすると照明器具には二股ソケットがついていたりもした。ご存じ、松下幸之助が一財をなした発明品である。二股のいっぽうには電球をつけ、もういっぽうは他の電気器具の電源供給用のコンセントになっていた。あまり、美的ではない光景である。

 テレビのアメリカドラマでは、壁のスイッチを入れると部屋が明るくなった。こんな世界に大いにあこがれた。ささいなことではあるが、そうなるまでに意外にも長い時間がかかった。

 いやいや照明どころではなく、壁にコンセントがつくまでにも相当に長い時間がかかった。壁スイッチはそのあとである。

 時間がかかったのは、技術の不足か、お金はもっと他のことに必要だったのか、あるいはアメリカではそういうふうになっていることに気がつかなかったのか。なんとなく、最後のような気もする。つまり、こころに余裕がなかった、ということではないだろうか。