屋根に上る

 昭和の時代はよく屋根に上った。屋根の補修をしたり、誤って屋根まで飛ばしてしまったボールなどを取るためにのぼるのは理由のあることだが、そうではなく、用もないのに屋根に上ることもよくあった。

 上ってどうするか。どうもしない。腰掛けて夕陽をながめたり、下を歩くひとをながめたり。それだけである。

 自分でも上ったし、屋根の上にひとを見かけることも珍しくはなかった。

 さて、いまはどうでしょう。ここ何十年も屋根に上った記憶はないし、屋根の上に人を見かけることもない。

 どうして上らなくなってしまったのだろうか。建物の構造が上りにくくなったのかもしれない。屋根瓦が減って屋根の強度が減ったのかもしれない。

 いや、それ以上に一軒家が減ったこともある。上りたくとも上る屋根がない。

 また、上れる一軒家があっても、まわりを高い建物に囲まれているので、見晴らしが絶望的になってしまったことも大きな原因なのかもしれない。

 なにはともあれ、昭和の光景がひとつ減ってしまった。