町の電気屋

 昭和三十年ころまでの家庭には、テレビも洗濯機も冷蔵庫もなかった。町の電気屋さんで売っているのは、電球やテーブルタップ、自転車のダイナモ、それに電池くらいだったのではないでしょうか。大もうけすることもなかったでしょうが、それなりの商いはあったようです。

 昭和三十年に入ると、家庭に一気に電化製品が入りはじめた。テレビ、冷蔵庫、洗濯機、こたつ、炊飯器、トースター、プレイヤー、……。さらには、ステレオ、クーラーなど。

 当時は、家電量販店はおそらくまだ存在しなかった。なので、これらの電化製品は町の電気屋さんから購入した。電気屋さん、大繁盛である。電気屋さんが扱うのは、一つメーカーの品だけである。松下の店、日立の店、東芝の店、などなど。

 品物が売れると電気屋さんはそれを設置しに購入者の家に出向く。家の中で作業するので、家族構成やら経済状況もそれとなく知ることができただろう。電化製品の有無は当然のように把握している。ニーズや希望も掴んでいたことだろう。なので、機を見てセールス販売にやってくる。電気屋さんが町に溶け込んでいた時代である。

 電気屋さんは売るだけでなく、修理も行った。電化製品には回路図がぶら下がっており、それを見ながらテスターと半田ごてを手に修理作業を行った。専門知識の要る職業だった。集団就職でやってきた若者を自宅に住まわせ、実地教育しながら育て上げる店も普通だった。

 よき時代であった、のだろう。